大判写真を始めてから、2年間が経過した。この2年の間のことを、まとめてみようと思う。経験してみないと、分からないことは、たくさんあった。もし、大判写真をこれから始める人がいたら、何かの役に立つかもしれないので、初心を忘れないうちに、書いておくことにする。
☆撮影対象☆
大判写真を始めるまでの数年間は、スナップばかり撮影していた。大判カメラを使っても、スナップ的な撮影方法をしようと試みたけど、すぐに諦めた。それなりのシャッタースピードが稼げないし、三脚必須のカメラだと、風景や静物を撮っていた方が楽しいし、その方が理にかなっていると思う。
大判カメラを使う以前は、RFがメイン機材として使用していた。RFってやつは、三脚を使って撮影するのは楽しくない。やっぱり手持ちで使うのが楽しいカメラなんだと思う。そのせいか、RFを使っている時は、風景や静物を撮影する時も手持ちだった。そのためか、どうしても微妙にブレるのだ。その当時は、そのことにさえ気がつかなかった。やっぱり三脚を使った撮影とは得られる画質が違うのだ。
アオリで、被写体の形を調整したり、ピント位置を調整出来るのは、とても楽チンだ。手持ち撮影のように、素早くは撮れないけど、被写体に向かった時の自由度はとても大きい。
☆撮影に関して☆
なんか、木製フィールドカメラっていうと、スローライフ的で、ゆったりのんびりっていうイメージがあるけど、実はかなり忙しいのだ。撮影現場に到着すると、三脚をセッティングし、カメラを組み立て、レンズを装着し、あれこれ小物を用意することになる。
ビューファインダーは、逆像で風景を見るんだけど、最初はかなり違和感があった。しかし、慣れのせいなのか、「逆」であることに最近はまったく違和感がなくなった。
アオリは、建築物をまっすぐ撮影するためのライズと、ピントを合わせるためのティルトを使用するくらいである。スイングなんて、まず使うことはないだろう。そう考えると、大きなアオリ量なんて必要ないのかもしれない。
☆大判って、それほど違うのか?☆
結論から言えば、違うと思う。6×9フォーマットでも広いフィルム面積なので、4×5と大差ないであろうと思っていた。しかし、6×9フォーマットって、例えば、8×10の印画紙にプリントしたら引伸ばし倍率的には、6×6フォーマットと大差ないのである。つまり、6×6フォーマットも6×9フォーマットも画質は同じである。印画紙の余白が多いか少ないかだけの違いと言っても良い。(もちろん、フォーマットによる表現意図は別としてだが。)
やはり、4×5フォーマットは、それなりの有利さが存在するのだ。立体感は、ほんと素晴らしいと思う。これは立体写真かと思うほどの写真が撮れることがある。(巷で評判のライカレンズの立体感なんて、どうでもよくなる。)
☆撮影機材☆
カメラ
最初に買った「タチハラフィルスタンド45」から、同じタチハラの「ハンディビュー4521」に買い換えた。買い換えた理由は、リアスタンダード(後枠)を動かすときに、ギアで稼動させることが出来なかったからという理由が大きい。これは、風景撮影ではあまり関係ないけど、近距離で静物を撮影する時は、ギア付きの方が便利だからだ。金属製カメラの方が堅牢でいいと思うけど、少しでも持ち運びを軽くしたいなら、木製になる。三脚にも影響してくるしね。
レンズ
フジノンの105mm、150mm、ニッコールの210mm、300mmの四本を使用している。150mm、300mm、210mm、105mmの順番で買った。どの焦点距離もそれなりの使用頻度だ。135フィルム換算だと、28mmから90mmくらいをカバーすることになる。
どれも、たまたま現行品(生産中止のため、最後のモデル)だが、全て中古で買った。
それぞれのレンズの使い心地について書いてみることにする。
<FUJINON CM Wide 105mm F5.6>
タチハラで、通常のレンズボードで使用するには、この焦点距離辺りが限界かもしれない。これ以上広角になると、アオリをするのに支障が出てくると思われる。
<FUJINON CM Wide 150mm F5.6>
4×5フィルムの標準レンズ。普通に使いやすい。軽くて明るい。フジのレンズは、気のせいかアクロスと組み合わせた時、とても良い感じになる。(気がする。)
<NIKKOR W 210mm F5.6>
僕が持っている4本の中では、一番重いレンズで、重量は460gである。カメラに装着した姿は、とても立派に見える(笑)
立体感がある写真が撮れる。
<NIKKOR M 300mm F9>
これは、大人気レンズらしい。こんな暗い開放値で大丈夫かと思ったけど、まったく違和感はない。暗くて困ったということもない。テッサータイプのためか、とてもコンパクトなレンズ。ロールフィルムホルダーと組み合わせて、6×9フォーマットで使うことが多い。6×9だと、135フィルム換算で、200mm弱くらいになる。描写は、もしかしたら好みではないかもしれない。(もう少し使い込まないと!)
ロールフィルムホルダー
最初、ホースマンの6×7ホルダーを買ったけど、これはタチハラではとても使いにくかったので、トヨ製のものに買い換えた。ホースマンのものは、ピントグラスを取り外せないタチハラでは、使ってはいけないと思う。フレンネルレンズを傷つけてしまい、取り替えたという経緯がある。タチハラで、ロールフィルムホルダーを使うときは、くれぐれもトヨ製を買うこと。
6×7よりも、僕にとっては6×9の方が、使いやすい。万一、6×7や6×6が欲しいときでも、トリミングすれば、それで良い。
カットフィルムホルダー
8個のホルダーを使用している。両面使用なので、フィルム枚数だと16枚ってことになる。アクロスと320TXを半分ずつ、装填している。
スポットメーター
セコニックのL-508を使用している。これも必需品だ。使いやすいけど、ボタン類の感触を、もう少し何とかして欲しい。現行では、L-758という高級品しか商品ラインにはない。
三脚
木製フィールドカメラには、それほど重量級の三脚なんて使わなくても大丈夫だ。ベルレバッハの木製三脚を愛用しているけど、将来的には、ハスキー3段を買う予定。スリックのプロ500を使うこともある。
冠布
これは、タチハラでは必需品。エツミ製の黒赤のものを使っている。運搬時にカメラを包んだり、地面で荷物を広げる時等、いろいろ重宝する。遮光さえ出来れば、色なんか何でもいいので、次に冠布が必要になったら、手芸店で気に入った柄の布切れを買ってきて、ミシンで加工しようと思っている。
ピントルーペ
僕にとっては、必要ない。肉眼でピントグラスを見るだけで、充分だ。今では持ち歩くことさえなくなった。
ケーブルレリーズ
ハクバの、ありふれた安価なものを使用している。これは、重要アイテムだけど、ふとしたことで、紛失してしまいそうなものなので、予備に、もう一つ買ったほうがいいかもしれない。
フィルム
4×5とブローニーはフジのアクロス。コダックの320TX(4×5)も使うけど、これは他に選択肢がないため、仕方がなく使っている。ブローニーは、プレスト400を使うこともある。おそらく、今後はアクロスが僕の主力フィルムになるであろう。
フィルター
ゼラチンではなく、通常の円形フィルターを使用している。小型カメラで使用しているものをそのまま使っている。105mm・210mmは、フィルター径が67mm、150mm・300mmはフィルター径52mmなので、2種類の口径で、オレンジ、イエローのSCフィルターを使用しているが、ほとんどオレンジしか使っていない。人物や静物は、フィルターは使用していない。
SCフィルターは、頻繁に付け外しをするために、保護フィルターは使っていない。将来的に、角型のゼラチンフィルターに切り替えたいけど、まだ先になりそうだ。
フード
広角用、通常用の汎用のラバーフードを使用しているが、その時の光の状況次第で、必要がなければ使わなかったり、フードで間に合わなければ、フィルムホルダーの引きブタ等で、影をレンズに落としている。蛇腹式のフードがあればいいなあとは思うけど、今の状態でもハレ切りは出来ているので、余計な荷物は増やさない方がいいし、、と、悩み中である。蛇腹式フードを買うなら、角型フィルターホルダー付きのものにして、フィルターもゼラチンにするだろう。
カメラバッグ
大判機材一式は、かなりの重量になるので、カメラバッグの選択を誤ると、体力の消耗にもつながる。ある程度の距離を歩くという条件だと、バックパックしかない。ショルダーやアルミバッグをカートで運んだりと、いろいろ試してみたけど、バックパックが一番楽だ。スナップと違い、一度腰を据えたら、しばらくはそこから動かないのが大判写真撮影なので、背中から荷物を降ろすのは、苦にならない。
そんなわけで、ハクバの「GWNEOフォトリュックM」という商品を使用している。価格の割には、とても使いやすい。レリーズやフィルター等の小物類は、すぐに手の届く場所にあった方がいいので、リュックには入れずに、ウエストバッグに収納している。
筆記用具
シートフィルムは、一枚ずつ撮影条件を変えて撮ることが出来るけど、それを暗記しておくのは無理なので、EIや、相反則不軌に関するデータなんかを記録して、現像時に備える。
水準器
カメラや三脚に付いているので、使用することはなくなった。
☆暗室機材☆
暗室
大判写真を始める前の暗室では、夜にプリント作業を行うだけであったので、そこそこの遮光が出来れば良かったのだが、印画紙が被らない暗室と、フィルムが被らない暗室では、遮光条件がまるで違うのだ。ダークバッグ内でカットフィルムホルダーにフィルムを装填するのは、ホコリが付きそうだし作業性が悪いので、暗室内で作業が出来るように遮光性を向上させた。
手引書によく載っているような、トランプ攪拌による手現像は、最初からやるつもりはなかった。あんな方法でうまく出来る自信はなかったし、そもそも、連続攪拌法は好きではない。しかし、ここから苦悩が始まるのだ。タンク現像も、うまくいかず、結局のところ、暗室内でフィルムハンガーで処理する方法で現像している。この方法でずっといくかどうかは、まだ分からないけど。
引伸ばし機
最大の難関は、カメラやレンズの撮影機材ではなく、実は引伸ばし機だった。高価で大きいというのがその理由だ。現像を外注するつもりは、最初からなかったので、大判写真を始めるということは、暗室機材も、一新するというのは、僕にとっては同義であった。大判写真の道に、入るかどうかを一年近く迷ったのは、引伸ばし機の悩みが大きかったからだ。
中古も探したが、なかなか良い出物にめぐり合えず、結局、新品で多階調ユニット付きの、LPL7454を購入した。一消費者としては、暗室市場にかなり大きな貢献をしたと思っている(笑)
そもそも、今の時代、一年間で何台売れるんだろうと思ってしまう。LPLにこの引伸ばし機の事で、問い合わせのメールしたら、すぐに電話で回答があって、とても好感が持てた。
引伸ばしレンズ
中古の引伸ばしレンズが、なかなか見つからなかったので、ELニッコールの150mmを新品で購入した。引伸ばしレンズの割には高かった。これも、既に生産終了してしまった。6×9を引伸ばすために、ELニッコールの105mmも購入した。これは、中古でいいのが見つかった。105mmは、6×6をプリントするときも、使っている。レンズと印画紙の距離が取れるので、何かと都合が良い。
作業台
引伸ばし機が重量級なので、それに見合うサイズと強度の作業台をホームセンターでSPF材を購入し、自作した。
ハンガー
ネガ現像の最良の方法は、模索中であるけど、今はISEのプラスチックハンガーを使用している。しかし、これにも問題がないわけではなく、まだまだ、試行錯誤中である。
☆そこまでして、大判写真をやる意味があるのか!?☆
これは、人それぞれだと思う。撮影も暗室も、中判までで通用した手法を用いても、大判では、うまくいかないことが多い(特にネガ現像)。しかし、そういうことを一つずつ解決していくと、小フォーマットを使うときにも、フィードバックされるのだ。
撮影機材だけなら、中古で揃えれば、それほど高くはない。得られる画質からすれば、安いとさえ言えるだろう。しかし、暗室道具は高価だ。引伸ばし機さえ、うまく入手できれば大判写真への敷居は決して高くないと思う。
人に強く勧めることはしないけど、僕としてはやっぱり大判写真の世界に入って良かったと思っている。時間がかかる割には、なかなかうまくいかないんだけど、趣味としてやるにはそれでいいと思っている。
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